ボローニャプロセス

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 法科大学院浪人していた二人の教え子が,都内トップクラスの私大・既修に合格し,一安心の今日この頃。まぁ,Winny高裁判決は,共犯から事実上従犯を削除しようというに等しく,これなら,カジノバーの摘発で,給仕やにぎやかしの華をやっている女の子を賭博幇助で検挙できないわな,と思いつつ,学内雑務に励んでいる毎日。チューリッヒネタを書こうと思いつつ,忙しすぎて書けませんでした。

 欧州では,高等教育に関してボローニャプロセスが進行中でして,スイスでも,これを推し進めているという現状です。そのコアとなるのが,学士課程と修士課程の二段階構成をとり,欧州全体で同一の基準でそれぞれの学位を授与していこうということにあります。学士課程が,専門分野の基礎を修得し,修士課程がそれを深めるというものです。しかも,単位認定がECTSという同一の基準でなされるので,互換性にも富むことになります(ここに主眼があるのでしょう。これにより,欧州全体で大学の国際競争力を高めようとしているのだと思います)。確か実行期限は,2011年のはずです。

 チューリッヒ大学でも,これを実施し,この春(夏か)に最初の修了者を出したとのことでした。従来は,おおよそ4年で大学を修了し,その後,各州の高等裁判所で実務修習を受け,試験に合格すれば,法曹資格を得ることができたのですが,現在では,3年間の学士課程+1年半の修士課程をへてはじめて実務修習を受けることができるようになったそうです。かつては,法学部卒業生の約7割が法曹の道へと進んでいったそうです。
 しかし,ボローニャプロセスに参加して最初の卒業者をみるかぎり,チューリッヒ大学の法学部では,うまくいかなったということです。一番大きな問題は,600人入学して(もちろん試験はありませんが),ストレートで修了できたのが,65人だったということにあります。初年度のアセスメント段階で約3割が落ちるのは,想定内としても,あまりにも少なすぎる人数に衝撃を受けており,その原因を分析して,再度カリキュラム等を検討するのだそうです。
# 従来は,最短で修了する学生は,約3割いたそうです。

 実は,このボローニャプロセスと同様のことを文科省は,やっていこうとしていて,昨年度の学士課程教育に関する中教審の報告書などは,その一つだったのでしょう。それ以外にも,中長期的な大学教育のあり方を検討しているのは,周知のことです。特に,単位の実質化とか成績評価の厳格化などは,国際的な統一的な仕組に参加したり,構築したりするとき,まず国内の基準が一定の水準に達していることが前提になりますから,そういう視点でも,これまでの経緯や報告書を見れば面白いかもしれません。
# もっとも,単位認定の厳格化や単位の実質化といっても,かなり厳しく評価に晒される法科大学院でさえ,いまだそれほど一定の水準にあるわけでなく,これを学士課程レベルで展開するのは,相当困難でしょう。土曜日にたまたま卒業した教え子たちが,千葉大に来ていて出くわしましたが,都内某カトリック系大学など,ひじょうに成績評価が甘く,本人も,千葉の学部時代の経験から,良や可になるのでは,と思ったら,一段階以上よい評価がきて驚いたといってましたし。他方,千葉大のLS生は,ひじょうに成績評価が厳しく(20%以下しか80点以上がつかない),うらやましいとかいってました。

 さらに,研究者養成にいたっては,まったくの未知数だそうです。昔なら(今でも)Habilitationを書かないと大学教授になれなかったのです。このHabilitationがかなり重厚なモノグラフィーであることを法学では,要求されていました。今後,どうなるかは,わからないとされつつも,シュワちゃんは,理系のように,短い論文を何篇かドイツのテーマで書くことでよくなるようになるのではないかと推測していました。さて,どうなるのでしょうか。
 ドイツにおける状況は,ここから

 ついでに,わが国の法曹養成制度を振り返ると,上述のように厳格な成績評価とか一定の評価基準の構築などほど遠い話で,それぞれの関係者が自助努力するしかないという状況なのでしょうか。先月の合格発表以来,未習者の合格率の低さについて,LS側と法務省側が責任をなすりつけあっているかのような報道もありました。どことはいいませんが,多くのLSでは,既習者を手っ取り早く鍛えて合格させようというカリキュラム編成が目立っている気がします。それでは,未習者が2年次に進学しても,かなりキツイ状況になるのは,目に見えています。
# だからといって,1年次にじっくり基本科目をやっても,それほど伸びるわけでない気もします。1年次の基本科目の単位数を6単位増やすという方針が示されとき,各科目の単位をそれぞれ拡張しようという方針(例えば,刑法総論を2単位でやっていたのを4単位にするとか),それよりは,各学生の状況に応じて自由に不得意分野を履修し,復習できる仕組のほうがよいように思います。

 ただ既修とはいっても,ごく一部の上位者をのぞいて,そんなにできるわけはないですから,結局,未修2年次=既修1年次でも,基礎的な理論教育に精力を注がないと,どうにもならないでしょう。既修は,できるとの前提のカリキュラムに無理矢理未修を押し込むから,どうしても未修も学力が伸び悩むのではないかと思う。 さらに,未習者だけでなく,既習者多くも,形式論理だけのどうにもならない論点主義の文章や,字面しか追えず,テキストを精緻に読み込むことができないところなどを是正しないと,どう見ても合格にいたらない気もしますし。
# 予備校本のような一見要領よくまとめられたかに見える安直な本に依拠しているかぎり,改善不能な様な気もする。なぜ,毎年のように刑事法の出題者がヒアリングで,文章力を問題にするのか,わかっていないのでしょうか。

 未習者では,学卒ですぐ入った者より,社会経験のある者の方がどうも伸びが大きいという印象も持っています。それは,社会における物事の機微に接したのかどうか,という差なのかもしれません。そもそも,学部新卒で,新聞を読まない,読書もしないというのであれば,豊かな社会経験を持った者との人生経験の差を埋めるような豊かな想像力をはぐくむこともできないでしょう。それでは,社会規範としての法を適切に理解するのは,困難なようにも思っています。 # 私は,LSでもっぱら未修クラスを担当していますが,なぜか毎年のようになぜか家政学部卒がいたり(だって,家政学部のある大学は,20もないはずです),年齢構成もばらばら,背景もばらばらで,もしかすると,平均年齢もアラサーでないかと思われようなクラスばかりです。そうすると,新卒者が年長者からうける刺激がよい影響をおよぼしているところも多々みられます。

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このページは、Tetusya Ishiiが2009年10月12日 02:54に書いたブログ記事です。

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