2005年7月アーカイブ

共謀罪その後

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 郵政民営化の政局の余波で、衆議院の法務委員会が事実上審議停止状態になってしまい、共謀罪を含む刑法・刑訴改正案はこのまま会期末を迎えそうです。政治のことはよくわかりませんが、衆議院解散ともなれば廃案です。もしかすると、会期末で審議未了のまま廃案になるかもしれません。
 昨日会合で話題にあがったとき、共謀罪の適否を考える場合、たんに実体法上の要件の妥当性を問題にしても不十分ではないかということを指摘されました。たしかに20世紀にアメリカ刑法で共謀罪が問題とされたとき、大きく二つの時期に分けて考えることができます。一つは、20世紀前半における議論で、一般的な共謀罪の要件が煮詰められていったときです。二つめは、RICO法において新たに共謀罪が制定法上の犯罪として規定されたときです。

公序良俗と刑法上の違法性

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 「指詰め」に協力したとしてクリニックの院長が逮捕されたとの報道が先日ありました。被害者の同意の有効性についての議論で、本件が反社会的行為に係る同意なので無効なので、傷害罪になるとするのは、いささか短絡的なような気がします。
# 報道にもありますが、指詰めを強要していたということから、同意の有効性それ自体が疑問となります。
 たしかに判例および従来の通説は、同意を得た目的、行為の手段・方法・態様、生じた結果の重大性などを考慮して傷害罪の成否を決すべきであるとしています。このような結論を引き出す前提として、かつては、国家・社会倫理規範に照らして相当といえるということが同意が行為の違法性を阻却する根拠だとされていました。そして、このような立場は、やくざや暴力団の反社会性を根拠に、指詰めにかかる同意を無効なものとしたのです。さらに、このような論拠から結論にいたる流れが、あたかも行為無価値論から必然的な結論であるかのように論じている者・本があったりします。が、いずれもかなり疑問があるといえます。

 最近のわが国の刑事立法は、基本的な政策路線でいうと、敵対的刑法(Feindstrafrecht)で一貫しているといえるのです。犯罪者の厳罰化の要求、少年法の改正、法定刑の引き上げ、性犯罪者のトレーシングetc.こういったものには賛成だけど、共謀罪だけは反対というのは、本質的なところがきちんと理解されていないか、ポリシーがないか、たんなる評論家にすぎないか、よくわかりませんが、ご都合主義という印象はぬぐえません。

ワームの作成と配布

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 Sasserというワームを開発した少年に対する裁判所の判断がでていました。ドイツ語のニュースから。これによると、4件のデータ変更(Datenveräderung)と3件のコンピュータサボタージュ(Computersabotage)で有罪とされ、保護観察(執行猶予)のついた1年9月の少年刑(Jugendstrafe)が言い渡され、さらに30時間の社会奉仕活動(病院もしくは老人ホームでの福祉作業)を命ぜられたそうです。

 ちなみに、ドイツ刑法では、ComputersabotageとDatenveränderungは器物損壊罪の特別類型の位置に規定されています。

§ 303a. Datenveränderung.
(1) Wer rechtswidrig Daten (§ 202a Abs. 2) löscht, unterdrückt, unbrauchbar macht oder verändert, wird mit Freiheitsstrafe bis zu zwei Jahren oder mit Geldstrafe bestraft.
(2) Der Versuch ist strafbar.
§ 303b. Computersabotage.
(1) Wer eine Datenverarbeitung, die für einen fremden Betrieb, ein fremdes Unternehmen oder eine Behörde von wesentlicher Bedeutung ist, dadurch stört, daß er
1. eine Tat nach § 303a Abs. 1 begeht oder
2. eine Datenverarbeitungsanlage oder einen Datenträger zerstört, beschädigt, unbrauchbar macht, beseitigt oder verändert,
wird mit Freiheitsstrafe bis zu fünf Jahren oder mit Geldstrafe bestraft.
(2) Der Versuch ist strafbar.

シャクティ事件

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 最高裁のウエブにシャクティ事件が公開されました。しかし、このドミノまんまのURLはなんとかなりませんか?アメリカの連邦最高裁のようにPDFで公開するとか、もう少しスマートな方法がありそうなものです。
 で、決定のポイントは以下の通りです。

 「被告人は,自己の責めに帰すべき事由により患者の生命に具体的な危険を生じさせた上,患者が運び込まれたホテルにおいて,被告人を信奉する患者の親族から,重篤な患者に対する手当てを全面的にゆだねられた立場にあったものと認められる。その際,被告人は,患者の重篤な状態を認識し,これを自らが救命できるとする根拠はなかったのであるから,直ちに患者の生命を維持するために必要な医療措置を受けさせる義務を負っていたものというべきである。それにもかかわらず,未必的な殺意をもって,上記医療措置を受けさせないまま放置して患者を死亡させた被告人には,不作為による殺人罪が成立し,殺意のない患者の親族との間では保護責任者遺棄致死罪の限度で共同正犯となると解するのが相当である。」

過失と違法性の意識

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Herzberg, Ein neuer Begriff der strafrechtlichen Fahrlässigkeit, GA 2001, SS. 568ff., S.569 Anm. 1.

 認識なき過失では、「不法をおこなう弁識」が欠如しているので、この場合、責任は、行為者が「この錯誤を回避できた」ということを前提にしている。……これに対して、認識ある過失により行為している者は、不法を意識している。したがって、この者については、刑法17条1項の他、免責事由(例えば刑法20条)が介入するかどうかが問題となる。このように考えることによってはじめて、ごく一般的な区別に実際上の重要性を与えることができるのである。認識ある過失ではなく、認識なき過失の場合に、刑法17条2項により刑罰が減刑されうるのである。