情報の所持

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 SADFEの続きをここでやるのもへんかもしれないが。「digital objectの所持」とはなにかというプレゼンがありました。やっている人は技術者の人なのですが、個人的な考えとかなり同じ方向にあるので、興味をひきました。内容は、簡単に言えば、electronic dominion/ controlがdigital objectの所持であるというもの。リンク貼ったりするのも、アクセス可能性を作っているので、electronic dominionではないかという質問がありましたが、それは論者の考えを誤解しているように思います。もっとも、electronic dominionがどのような内実なのかが、それほどはっきり示されなかったということもあります。ケース志向なので、抽象的な一般的規準を提示しえなかったという方法論的な問題がそこにはあるのではないでしょうか。
 そもそもが、情報を所有するという状態は、なんらかのメディアによってしかなしえないということが忘れられてきたのではないでしょうか。そして、コピーコントロールができていれば、メディアを所持していることによって情報を所持し、所有できているということであった。文書を所有しているということは、紙の束を所持・所有しているにとどまらず、その記載内容をも所持・所有しているということは、実は以前から前提とされてきたように思います。機密情報の窃盗等の事案で、「情報の化体した媒体」を「財物」とするということがなんかとんでもなくすごいことのように刑法の本に書いてあったりしますが、以前から本屋で「情報の化体した媒体」としての本を万引きしたら窃盗となったのと同じように、企業内の書類も考えたということにすぎなかったりするのです。ずうと大昔は、口伝しかメディアがなく、語り部のように口伝する人たちを支配・所有しておけば、情報を所有できていたのでしょう。文書化されれば、文書の支配・所有が情報の所有となったのです。

 

 ところが、情報技術の発達は、メディアが無体物となる現象を産み出したところに、改めて情報の所持は何かが問題とされる原因があるのです。大昔の口伝のような情報伝達が、驚くべきスピードと正確さをもってなされていくのです。ネットというメディアになると、情報はデータというパッケージによって、伝送・複製等の処理がなされていきます。そうすると、情報の所持・所有も、データというパッケージで考えざるをえなくなるのです。そのような観点からすると、データを支配しているということが情報の所持ということでよいのではないかということになります。ただし、情報を所持しているからといって、ただちにその情報内容について権利を有していたり、所有していたりするわけではないという状態も頻出してきます。情報についても、所有と支配が分離し出すのです(株式会社みたいですが)。ところが、従前の所有と支配の一致をイメージしたまま、情報の所持を話し出すので、わけがわからなくなってくるといえます(このへんも日本の株式会社とおなじです)。
 問題は、どのような場合に、情報の所持=支配を認めることができるのか、ということにあります。ネットワーク上のサーバに蔵置されたポルノをブラウザでみているとき、データはブラウザのキャッシュとして保存されています。このような場合、ポルノのデータを所持しているといえるのでしょうか。児童ポルノの単純所持を処罰するところで、実際に問題となった事案です。

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 webに掲載した側の罪責についても問題があります。

 児童ポルノに関して言えば、web閲覧者の一時ファイルにデータの写しが残ってしまうのは、もはや「陳列」ではなく「提供」だと思います。刑法175の改正案で言えば「頒布」。
 でも、そうすると、ネット利用の「公然陳列罪」というのは、ほとんど出番がなくなってしまい、悩ましいところです。 

 改正児童ポルノ法には「電磁的記録保管罪」があってリモートストレージをターゲットにしたつもりですが、自宅のサーバーでも「保管罪」とする裁判例(名古屋簡裁H16.9.22名古屋簡裁H16.9.24)があって、所持罪との境界線が怪しいところです。

>>
第7条(児童ポルノ提供等)
2 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
<<

http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20060421/1145602735
にも紹介した大阪地裁H18.4.21ですが、

なお,その他にも,児童ポルノについては電磁的記録の保管罪がむしろ成立するとも主張するが,本件では,電磁的記録が収録された有休物であるハードディスクドライブが存在する以上,その所持罪の成立が否定される理由はなく,従ってまた,①の主張中保管行為をいう点については製造目的の所持である旨の指摘であるとして検討することとする。)。

とも言っています。

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