故意における認識と中立的行為とマネロン

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 旧五菱会の事件で、資金洗浄したとして、組織犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿の罪)に問われた人に無罪の判決が出ました。 #とりあえず、日経の記事

 まず、犯罪収益等とは、組織犯罪法2条に定義されています。

2 この法律において「犯罪収益」とは、次に掲げる財産をいう。
 一 財産上の不正な利益を得る目的で犯した別表に掲げる罪の犯罪行為(日本国外でした行為であって、当該行為が日本国内において行われたとしたならばこれらの罪に当たり、かつ、当該行為地の法令により罪に当たるものを含む。)により生じ、若しくは当該犯罪行為により得た財産又は当該犯罪行為の報酬として得た財産
 二 次に掲げる罪の犯罪行為(日本国外でした行為であって、当該行為が日本国内において行われたとしたならばイ、ロ又はニに掲げる罪に当たり、かつ、当該行為地の法令により罪に当たるものを含む。)により提供された資金
  イ 覚せい剤取締法(昭和二十六年法律第二百五十二号)第四十一条の十(覚せい剤原料の輸入等に係る資金等の提供等)の罪
  ロ 売春防止法(昭和三十一年法律第百十八号)第十三条(資金等の提供)の罪
  ハ 銃砲刀剣類所持等取締法(昭和三十三年法律第六号)第三十一条の十三(資金等の提供)の罪
  ニ サリン等による人身被害の防止に関する法律(平成七年法律第七十八号)第七条(資金等の提供)の罪
 三 不正競争防止法(平成五年法律第四十七号)第十一条第一項の違反行為に係る同法第十四条第一項第七号(外国公務員等に対する不正の利益の供与等)の罪の犯罪行為(日本国外でした行為であって、当該行為が日本国内において行われたとしたならば、当該罪に当たり、かつ、当該行為地の法令により罪に当たるものを含む。)により供与された財産
 四 公衆等脅迫目的の犯罪行為のための資金の提供等の処罰に関する法律(平成十四年法律第六十七号)第二条(資金提供)に規定する罪に係る資金
3 この法律において「犯罪収益に由来する財産」とは、犯罪収益の果実として得た財産、犯罪収益の対価として得た財産、これらの財産の対価として得た財産その他犯罪収益の保有又は処分に基づき得た財産をいう。
4 この法律において「犯罪収益等」とは、犯罪収益、犯罪収益に由来する財産又はこれらの財産とこれらの財産以外の財産とが混和した財産をいう。

このように定義された犯罪収益等の取得もしくは処分につき事実の仮装をし、または犯罪収益等を隠匿する行為、および、犯罪収益等の発生原因につき事実を仮装する行為が同法10条において処罰されています。報道から推察すると、被告人には、犯罪収益等であることの認識があったとはいえないとして、無罪とされたようです。

 犯罪収益等隠匿罪の性格は、いろいろな見方があると思いますが、事後従犯ないし物的庇護罪という性格がその中心となっているとみてよいように思われます。この点で、財産犯により取得された財物に限定される盗品等に関する罪と異なってきます(反対:井田)。それでも、盗品等に関する罪で、盗品等であることの認識が問題とされたように、本罪でも、犯罪収益等であることの認識が同様に問題となってきます。しかし、盗品等に関する罪は、前提とされる犯罪が財産犯であること、また客体も財物に限定されていることなどから、「盗品等であること」という認識は比較的立証されやすいのかもしれません。
 もっとも、従来盗品等に関する罪の故意の存否が問われた事案であっても、盗品「かもしれない」ということだけに議論の焦点があてられ、「盗品」の意味の認識は無視されてきたといえます。しかし、実は、盗品等に関する罪の故意で、盗品かもしれないという未必の故意の議論は、故意の意思的要素の問題としてみたのは正しくなく、「盗品」ということの意味を行為者が認識していたかどうかということが問題の本質ではないかと解すべきではないかといえます。そして、犯罪収益等隠匿罪における「犯罪収益等」の認識が問題となる場合、そのことがより一層顕在化して現れてくるのではないでしょうか。つまり、「犯罪収益等」の認識というとき、2条2項あるいは別表に具体的に列挙された犯罪と当該財産との関連づけをどのように解すべきかということをまず解決する必要があります。そして、犯罪収益等隠匿罪が、組織犯罪処罰法において規定されていることを重視するなら、なにかヤバイお金だという認識では故意としては不十分であり、より具体的な犯罪との関連性を認識していることが必要ではないかと解されます。

 次に、犯罪収益等隠匿罪はいわゆるマネロン(資金洗浄)を処罰するものであり、通常は金融機関を通じてマネロンがおこなわれることからすると、主たる規制対象は金融機関に関係する者となります。すると、金融機関の者が、マネロンをもっぱらその業務としておこなっている場合はおそらくまれであり、ふつうは通常業務の一環としてマネロンをやるという形態ではないかといえます。あるいは、通常業務としておこなっている顧客との取引にマネロンに該当するものはあるが、その事実を金融機関側が認識していない場合のほうが多いかもしれません。
 とすると、なんかヤバイかもしれないという認識の下に取引をおこなった場合すべてに資金洗浄に関する罪の成立を認めてよいのかということが問題となってきます。このことは、犯罪収益等隠匿罪が事後従犯的性格を持つことから生じてくるものだという面もあります。すなわち、中立的行為による幇助の問題と同様の構造がここにはあるのです。したがって、問題が直結するものではないとしても、中立的行為における幇助においてどのような態度をとるのかということをも考えに入れて、あるいは中立的行為における幇助の問題における態度決定と矛盾することなく、本罪の成立要件を明らかにしていくことが必要であるといえます。わが国の共犯に関する判例理論が比較的共働者の主観面に力点を置いてその成否を考えてきたところからすると、犯罪収益等隠匿罪の故意もその成立には、かなり明確な「犯罪収益等」であることの認識が必要とするのがおそらく一貫するといえ、もしかするとそのような判断が冒頭の判決の規定にあったのかもしれません(もちろん確認していないので、推測です)。

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