虚偽公文書作成罪

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 のりを使った工作(色塗りはしません)をしているときに入ってきたニュースです。いそがしさと体調の悪さで、ウイルス作成罪への対応はちょっとまっていただくことになります。m(_ _)m

岩手県では入試の際、単位不足を隠すために虚偽の調査書を作成していたことも発覚した。

大学推薦入試の社会科の評点を付ける際に、実際は履修しなかった必修科目に履修済みの科目と同じ評点を付けてていた。

高校履修不足:架空点数で推薦も 大学側「調査しない」−教育:MSN毎日インタラクティブ

 ただ、そういうときでも、職業病なのか、ついつい犯罪成立要件のことを考えてしまいます。公務員が、その職務に関し、行使の目的で虚偽の文書を作成した場合、虚偽公文書作成罪が成立します。一般的な書式はいろいろでしょうが、調査書は書類発行時の学校長の記名・押印があったように記憶しています。そうすると、国公立の学校の場合、調査書は、公務員が作成すべき文書ですし、公務員がその職務に関し作成する文書ということで、公文書偽造罪あるいは虚偽公文書作成罪の成否が問題となります。問題の調査書が作成された経緯として考えれるのは次の場合が想定されます。

  • 学校長自身が問題の調査書作成の経緯(未履修の科目に履修済みの成績を記載していることなど)を知っていて調査書を作成している場合
  • 学校長自身は調査書の内容には一切関与せずに作成されている場合
    1. 代決者がおり、代決者が事情を知りつつ作成している場合
    2. 事前の決裁を要せず一定の手続により作成することが許容されている者が事情を知りつつ作成した場合
    3. 調査書の起案としてその内容を作成はするが、学校長等が決裁をしている場合

 これらは、補助公務員の作成権限をどのように考えるのかという問題と、虚偽公文書作成罪に関して間接正犯の形態で実現することが可能であるかという問題にかかわります。
  市役所の係長であった被告人がその権限がないのに自宅資金を借り入れるために、申請書の提出・手数料の納付のないまま被告人本人およびその他の者の印鑑証明書を作成した事案で、文書の「作成権限は、作成名義人の決裁を待たずに自らの判断で公文書を作成することが一般的に許されている代決者ばかりでなく、一定の手続を経由するなどの特定の条件のもとにおいて公文書を作成することが許されている補助者も、その内容の正確性を確保することなど、その者への授権を基礎づける一定の基本的な条件に従う限度において、これを有しているものということができる」とし、「被告人が、申請書を提出せず、手数料の納付もせずに、これを作成取得した点に、手続の違反があるが、申請書の提出は、主として印鑑証明書の内容の正確性を担保するために要求されているものと解されるので、その正確性に問題のない本件においてこれを重視するのは相当でなく、また、手数料の納付も、市の収入を確保するためのものであつて、被告人の作成権限を制約する基本的な条件とみるのは妥当でない」として、公文書偽造罪の成立を否定した判例(最判昭和51年5月6日刑集30巻4号591頁)があります。
 これに対しては、作成権限の有無に内容の正確性という条件を付するのは、無形偽造と有形偽造の区別を否定するものであるとの批判もありますが、作成権限に付された条件の一つとして条件違反の重要性の問題とみるならば、判例の立場を是認することも可能でしょう。そうすると、学校長が関与していない事後決裁型の場合、内容虚偽という条件違反のゆえに作成権限が否定され、公文書偽造罪の成立を考えることも可能になります。
 他方、学校長が関与していない事前決裁型の場合、学校長あるいは代決者が調査書の内容が虚偽であることを知って決裁をした場合には、虚偽公文書作成罪の成立が問題となります。とくに事前決裁型の場合、間接正犯形態での犯罪の実現であり、虚偽公文書作成の間接正犯形態の一部を公正証書原本等不実記載罪として独立の犯罪類型として規定していることともの関連して、虚偽公文書作成に含めうるのかどうかが問題となります。判例(最判昭和32年10月4日刑集11巻10号2464頁)は、起案担当者である公務員については間接正犯による虚偽公文書作成罪の成立を肯定しており、当該調査書についても同様の者はおそらく存在しているわけで、その者について虚偽公文書作成罪の成立を認めることが可能でしょう。

 そうすると、この報道が事実だと、だれかに公文書偽造あるいは虚偽公文書作成罪の成立が認められることになりそうで、その事実を知った教育委員会の担当者は、その職務遂行の過程において犯罪事実を知ったとなれば、告発義務が生じる(通説)ことになる(刑訴法239条2項)のですが、はたして告発するのでしょうか。
 さらに、調査書ではなく、その他の証明書類、教育委員会に提出した虚偽のカリキュラム、単位不足を知りながら発行した卒業証書、この問題ではいろいろな書類が出てきそうですが、どこまで公文書偽造、虚偽公文書作成となりうるのでしょうか。

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strafrechtが、岩手で岩手や単位と広い入試などしていたことも
strafrechtが、入試を作成した

きのう、単位に不足ー!
iusは単位っぽい不足したいです。
きょうstrafrechtで、発覚したよ♪
岩手に作成したよ♪
strafrechtの虚偽作成ー!

きょうは岩手で不足した?
iusは虚偽みたいな不足する?
strafrechtで調査したいなぁ。

iusは岩手へ不足しないです。
iusは不足したの?
strafrechtが虚偽は調査されたみたい…

 少しずれたコメントで恐縮ですが、最近指定管理者なる制度ができ、公権力の行使である「公の施設」の利用承認等使用許可の事務が、民間の機関に移民されています。そこで素朴な疑問があります。これを偽造した場合「公文書偽造」となるのか?、ということです。

 ①つまり、指定管理者が作成・交付する「公の施設」の使用許可証は、地方自治法・自治体の指定管理者条例に基づき、自治体の長の権限が委任されたものと解されるため、当該業務は「法令に拠る公務」だと思われます。そうすると、この機関(指定管理者)が作成・住民宛に交付した「利用承認等の使用許可証」は、行政機関から委任された公権力の行使をして許可したことを証する文書(狭義の意味でも)であると。
 ②また、さらに自治体条例・条例の委任により施行規則で、指定管理者の作成すべき書式が行政文書としての形式で行政の長がきていしている。

 以上から見れば、今までの身分としての公務員・・・公務所・・・そこの公務のため作成された文書・・・という定義とは違った性質のものと言えるのですが、しかし、③委任された公権力の行使、④自治体の長が定めた形式により承認する、⑤これが告示されている、・・・等々の(新しい?)性質というものが発生しているように思われます。

 ただ、「公務員」という身分を重視する考え方では、指定管理者の内部で、仮に、不真正に作成された文書に「公文書偽造」罪や「虚偽公文書作成罪」というリスクを背負わせるのはいささか酷なような気がします。

虚偽公文書作成罪は、「公務員」が主体ですから、みなし公務員かどうかがひとつの分かれ目になるのではないでしょうか。
公文書偽造罪では、公務員または公務所の作成すべき文書であればその対象になりますので、それを権限なく作成した場合が偽造となります。
このあたりからもうすこしかんがえてみたらどうでしょうか。

 コメントありがとうございます。
 『公務員または公務所の作成すべき文書』が「公文書」であるとすると、『○○文化センター』という「公の施設当該施設である事業所の職員(なお公益法人の職員)」が、当該施設で作成した場合、以下の可能性について考えてみました。
 即ち、①指定管理者が「みなし公務員」である場合と、②○○文化センターという公の施設が「公務所」にあたる場合の、何れかに当てはまるか否か・・・ということです。

 ①指定管理者が「みなし公務員」か?について
 指定管理者は、地方自治法第244条2の3の規定により、○○市が関係条例を制定し、且つ指定にあたっては議会の議決を経て指定機関と成るものである。さらに、「指定の手続き」・「管理の基準」及び「業務の範囲」についても関係条例により規定することとなっていることから、○○市はこれらを条例で定めている。さらに、市長が制定・告示した規則により、指定管理者が行うべき利用許可につき、事務手続きと当該手続きの書式が定められている。
 以上により、指定管理者の当該事務は市長の権限(公権力の行使)が委任されているものであるから、これを指定管理者が行使したことを証する利用承認等の使用許可証の作成・交付する行為を行い得る者は「みなし公務員」となる。・・・・と思うのですが。

 ②公の施設が「公務所」か?について
 公の施設であっても、公務員が不在であったり、この事業所(の人員)が清掃や警備といった個々の具体的業務を行っているに過ぎない場合には、この人員は「公の機関」たる性質を持たないから公務所ではない。
 しかし、地方自治法・○○市条例に規定される公権力の行使を含む委任事務を行いうる機関(人員)が存在し、且つこれの行使を証する文書を住民に交付するとともに、この許可行為について市長に報告していることからすれば、当該指定管理者の事業所である当該公の施設は「公務所」である。・・・と考えます。

 そうすると、例えば、「使用許可証」を当該機関以外の者が無権限に作成した場合には「公文書偽造罪(有形偽造)」を構成し、権限ある者が偽りの内容の文書を作成した場合には「虚偽公文書作成罪(無形偽造)」を構成すると考えます。

 また、指定管理者は、前述の通り、地方自治法第244条2の3の規定により、○○市が関係条例を制定し、且つ指定管理者の指定に当っては、議会の議決を経て指定機関と成るものである。さらに、「指定の手続き」・「管理の基準」及び「業務の範囲」についても関係条例により規定されている。
  これら(法律の留保)により、利用承認等の使用許可行為は、当該『指定管理者限り』で行いうると考えられることから、これを「再委託」などして、別の法人格を持つ者(私人を含む)に代行させることも、“無権限の文書作成”になり、「公文書偽偽造罪」を構成する・・・と考えました。・・・が、いかがでしょうか(???自信は、あまりありません???)。

通りがかりのものです。たまたまこのブログに行き着きました。こんな場合はどうなのでしょうか?
ある市の条例で、建物建設前に建築主と学校が建設計画の協議が必要で、その報告書も建築確認の前に提出する必要があったのだが、条例の解釈で建築主は協議は必要ないと考えていた。建築主は当該の建物の建築前に学校関係者と会って話をしただけで協議をしたという報告用紙に記入して市に提出。建物の建設後、建築主と学校の代表者のいる会議の場で、「市に申請書類が不足していたといわれたので、学校には説明しただけでも協議を報告する用紙に記入した。もちろん、市条例にもとづく協議をしたという認識は全くなかった。それが悪いというなら第三者に判断してもらうしかない」と説明。しかし、その建築主は、特別法人で、法律により、刑法については公務員と同様に扱うことが定められている法人であった。
このような場合、その協議の報告用紙を(虚偽としりながら)記入した建築主について、虚偽公文書作成の罪に問われる可能性があるのでしょうか?これはあくまでも仮想のできごととしてですが、ぜひ専門の皆様の見解をお伺いしたいのです。何卒よろしくお願いします。

 先般の投稿:
  元ウルトラ警備隊 | 2007-05-20 23:16 につき、追伸いたします。

 ただし、指定管理者制度には、公共サービス改革法における「みなし公務員規定」のような法律上の成文規定がないので、指定管理者が“みなし公務員たるか否か”ということについては、公務員たる機関(行政の長)からの、具体的な権限委譲の種類・性質および国民(住民)に対する権力作用の及ぼし方、さらに、自治体議会による当該指定管理者の指定における業務の範囲・管理の基準等に照らし、個別に判断されるべきものと考えます。

 連続で恐縮ですが、元ウルトラ警備隊 | 2007-06-04 00:02に再度追伸させていただきます。

 「公共サービス改革法」における“みなし公務員規定”というのは、刑法7条が適用されるみなし公務員であるとされておりますが、少しおかしいのではないかと思います。
 この規定が根拠法になると考えるとすると、どうにも納得がいきません。そもそも刑法の言う“みなし公務員”は、そもそも根拠法ではないからです。
 そうすると「公共サービス改革法」の『みなし公務員とする』という条文”で規定されるから、というのはちょっとおかしい。「公共サービス改革法」に規定される個別の条文で「何々の公務を行うから~」と言うのであればそうだろうと思います。公務を行っているかどうか判断できない公務員でない者を“みなし公務員とする”と言ってみたところで“ハイそうです~”と承知するのは如何なものかと考えます。また、これに関連して地方自治法の指定管理者の条文(244条2の3)に“みなし公務員”規定がないから“みなし公務員ではない”という議論もおかしいのではないかと考えます。
 
 公の施設を管理する場合自治体の「直接管理」とするか「指定管理者」とするかについては、地方自治法244条2の3により、条例の制定を経ること、そして指定管理者条例制定後に、議会での指定手続きを経て指定機関になることから、当該指定管理者は“法定により公務を行う者”であり、みなし公務員となると考えます。

 以上、長くなりました。

「みなし公務員」って例えば国立大学の職員はどうなんでしょう?「非公務員型」になって、人事院から労働基準法に従うようになりましたが。
 まったくのド素人で恐縮なのです。
 最近、耳にしたことで、先生方がやってもいない講義をやった、開講したという報告書を文科省に提出する資料を作成していて、疑問を覚えたのです。そういうのって法律的に大丈夫なんでしょうか。。。

最近のブログ記事(けったいな刑法学者の戯れ言)

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あけおめ

最近のブログ記事(続々・けったいな刑法学者のメモ(補訂版))

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