科学的証拠の意味

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 年度が替ってから,次期中期計画がらみの雑務が降って涌いて,どたばたしまくりな日々です。大学みたいにコンプライアンスのかけらも見あたらないような教員が多数いるところで,どうしてコンプライアンスなんかやるのかと,どっかにいいたい気もしますが。
先週の話題は,もっぱら足利事件でしょうか(あるいは,短答の発表かも)。いろいろ書かれていますが,個人的には,中山先生のものが一番的確な指摘ではないかと思います。

誤判の原因がDNA鑑定の技術の進歩の差にあったという形で矮小化してしまうのは、表面的な言い逃れに過ぎず、

(中略)

この事件では、DNA鑑定が有罪の証拠とされただけでなく、嘘の「自白」を引き出すために利用されたという事実に注目すべきです。誰もが不思議に思うのは、無期懲役にも当たるような重大な犯罪について、真犯人でない者がなぜ嘘の「自白」したのかという点です。

[From 中山研一の刑法学ブログ : 足利事件の教訓]

 法務省ないし検察庁は,DNA鑑定の制度の問題を軸に問題点をとらえているようですが,それは,科学的証拠が明らかにしているものを適切に評価しろ,といえばたりるものでしかない気もします。むしろ重要なのは,科学的証拠を適切に評価しないなかで,犯人だと決めつけて,捜査を行なうという体質的なものに問題があるのではないでしょうか。足利事件で,この方は,その他の二つの事件についても,「自白」をしています(不起訴とはなっていますが)。しかも,最初の自白は,任意同行のされた当日だったようです
# この点で,「『代用監獄』における密室の長期間にわたる取調べ」にも中山先生は,言及されていますが,このこと自体は,今回の件と直接は関係しないでしょう。
 おそらくDNA鑑定がない頃であっても,例えば,遺留物の血液型と一致するから,犯人だろうということで,自白を得ようと努力されてきたわけで,このようなあり方を再度見直さない限り,こんどは,DNA鑑定とは別の証拠評価を見誤ることで,別の形のえん罪もありうるのではないでしょうか。
# この事件では,DNA鑑定だけが取り上げられていますが,1審・2審で,精神鑑定をした著名な方は,当時の被告人を小児性愛者だと断定して,つよく非難していたような記憶があります。その鑑定内容について,あるいは,一般的な精神鑑定の信頼性についても,本来は再検証すべきなのでないかという気もしなくもありません。

イスラムの刑罰と法(メモ)

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 イスラム法で,犯罪は,次の三つに分類されるらしい。

  • Huddood:決められた刑罰によって処罰されるもの
    1. Zina:姦通
    2. Qadhf:侮辱
    3. Shurb Al-Khammur:飲酒
    4. Sariga:窃盗
    5. Qat Al-Taria:強盗
    6. Ridda:背教
  • QuissaとDiya:殺人と傷害
    これらの犯罪は,血讐・贖罪金による処罰可能とされる
  • Taazir:違反行為や社会ないし宗教上の不当行為をすべて含むものであり,裁判官の裁量により処罰される

 スーダン出身で現在U.A.E.の内務省法律顧問をされているエルブシュラ・マゴウプさんが千葉大にて,研究のため滞在されています。その研究の報告として,イスラム圏におけるサイバー犯罪との比較を講演していただくことにしました。ふるってご参加下さい。

  • 日時 2009年3月24日(火曜日)18時から20時まで
  • 場所 北海道大学東京オフィス(サビアタワー10階)東京駅日本橋口よりすぐ
  • 講師 Mahgoub Mohamed Elamin Elbushra, Professor Dr.
      (UAE内務省顧問 兼 刑事法教授)    慶應義塾大学Ph.D. in Law(1988)
  • テーマ E-crime : definition, investigation, prosecution, trial and treatment of e-offenders
  • 使用言語 英語・日本語(通訳:石井徹哉・千葉大学教授)
  • 参加料 無料
  • 参加申込み 下記メールアドレスまで、ご氏名、ご所属を明記してお申し込み下さい。
     北大の町村先生がとりまとめられていますが,メアドをのせるとスパムの脅威にさらすことになりますので,控えます。私まで連絡をいただければ,転送します。

Elbushara.jpg Contemporary Terrorism -Diversity of Perspectives-
「現代のテロリズム -イスラム教徒と非イスラム教徒の視点の相違ー」
講演者: Dr. Mohamed Elamin ELbushara Mahgoub
(モハメッド・エラミン・エルブシャラ・マグブ博士)
UAE内務省刑事法顧問

「テロとの戦い」は、現代の国際政治のひとつのキーワードとなっているが、
「テロリズム」の定義をめぐっては多くの議論が存在する。欧米における理解と
中東・イスラーム地域における理解の差異、また、イスラーム世界内部に存在す
る多様な立場を検討する。

日時: 3月11日(水) 午後1時~午後4時
場所: 人社研総合研究棟 4階 共同研究室2
使用言語: 英語

因果関係と択一的認定

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 mixiで後輩に教えられた事件です。たまには,真面目に。

起訴状によると、(被告人)は07年12月2日早朝、小倉南区下曽根の横断歩道上で、あおむけになった同区の飲食店従業員(A)さん(当時35歳)に馬乗りになって首を絞めた。その後、〈1〉頸(けい)部圧迫による心停止〈2〉頸部骨折で身動きできなくなった後、通りかかったタンクローリーに頭部をひかれて脳挫滅――のいずれかで(A)さんを殺害した、としている。

[From 首絞め最中に交通事故...殺人それとも殺人未遂+過失致死 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)]
※筆者により匿名化

 (1)行為者の扼殺行為とそれによる致死という経過と(2)行為者の扼殺行為⇒路上での身動きできない状態の作出⇒タンクローリーによる轢死という二つの因果経過いずれかで,いずれの経過についても,扼殺行為から被害者の死に対して因果関係を肯定できれば,殺人罪の既遂を肯定しうるということでしょう。他方で,いずれか一方の因果経過について,刑法上の因果関係を肯定できないとなれば,既遂の証明がないものとして,未遂にとどまることになるわけです。
 問題は,(2)の経過について,因果関係を肯定できるのかということですが,横断歩道上でこのような行為を行なうことについて,車に轢かれることは,ありうるものといえそうで,当該行為にそのような危険が内在しているともいえそうです。とすれば,因果関係を肯定するのは,それほど難くないように思います。マンションで暴行を加えられた被害者が高速道路に逃げ込んで,事故に遭うということ(最決平成15年7月16日刑集57巻7号950頁)よりは,よりありえる事態でしょう。

 最近の流行の議論からいえば,このような場合に故意があるといえるかどうかで,通説(おそらく判例も)からすると,行為者の認識した因果経過が相当であれば故意を認めうるとしますが,結果発生の原因となった危険を認識しなければならない等という見解からすると,行為者が,自己の扼殺行為について,車による轢死の危険が内在していることを認識していたのかどうかが問われることになるでしょう。

更新をサボって、いく年月。もはや見る人もないかも。
#ともかく、持病のせいで疲れやすく、真面目なことを書くことが難しい状況なので。
というなか、こき使われつつ、安請け合いのセミナーです。本論の原稿は、直前に届くらしいので、なにを話すのかすらわかりません。

早稲田大学グローバルCOEプログラム《企業法制と法創造》総合研究所主催

早稲田・バークレイ・スタンフォード・ジョイント・セミナー
「SOX法以後のアメリカにおける企業犯罪捜査とコンプライアンス-日本への示唆を求めて-」

  • 日時: 2008年12月13日(土)13:00-17:30
  • 場所: 早稲田大学26号館(大隈タワー)地下1階B104多目的教室
  • 使用言語: 英語・日本語(同時通訳つき)
  • 参加申込: 12月10日(水)まで。
  • Webでの申込

刑法判例百選(第6版)

今週末、金曜日に配本予定とか。

製造行為一個説

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 某先生に、今年度は懲役刑(たしかに作業をともなうし、身柄拘束もあるし)だからといわれてますが、それを実感する今日この頃。備忘録です。以前東京高判の判批を書いたとき、一連の行為を製造行為にすればよいといったら、散々でしたが、多少賛同者はいるようです。

銀塩カメラのネガは必ず永久に残るが、デジカメのSDカードの画像は残らないのである。
 だとすると、デジカメ利用の場合は、SDカードなどの中間媒体の存否にかかわらず、犯人の意図する最終媒体の生成に至る一連の所為が一個の製造行為であり、製造罪の単純一罪となるのである。(包括一罪説には反対する)
 また、保護法益からも説明できる。
 3項製造罪(姿態とらせて製造)の趣旨が、画像の流出による法益侵害であるとすれば、製造犯人の意図は、児童ポルノであるHDDを製造することである場合に、短時間で
   撮影→SDカード→HDD
という複製過程があったとしても、SDカードが流出する危険がないから、SDカードについて独立した製造罪として評価する必要はないのである。
[From 製造行為一個説 - 奥村徹弁護士の見解(hp@okumura-tanaka-law.com)]

 ちなみに、私は包括一罪(科刑上一罪的な性質ではなく、実体法上の一罪の性質のもの)であろうと思っています。検察側からは、SDの画像が残らないとはいいきれない、といわれそうです。ところで、画像流出による法益侵害の危険って、被害児童の利益の侵害なのか、社会的法益のほうなのか、どっちなんでしょうか。

秘密漏示罪と必要的共犯

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 奈良県で家族3人が焼死した放火殺人事件をめぐり、中等少年院送致になった長男(17)らの供述調書を引用した本が出版され、精神鑑定を担当した京都市の医師(49)が秘密漏示容疑で奈良地検の家宅捜索を受けた問題で、医師が地検の任意の事情聴取に対し、「(著者から)頼まれたから調書を見せた」と漏洩(ろうえい)を認める供述を始めたことが22日、わかった。

 こうしたことを受け、医師も供述を変え始め、草薙氏に強く頼まれたため調書を見せたことを認めたという。
 地検は草薙氏や講談社の担当者らについても、職務で知った個人情報を漏らした秘密漏示容疑の医師の「身分なき共犯」にあたる可能性があるとみて聴取する方針。

asahi.com:鑑定医、漏洩認める 「頼まれ見せた」 調書引用 - 社会

 「漏示」といっても、公然と一方的にしゃべるわけじゃなくて、漏示の相手方が必要です。ところが、秘密漏示罪は、特定の身分のある者の漏示行為のみを処罰し、漏示を受けた者を処罰していません。いわゆる必要的共犯の対向犯に相当するのですが、一方当事者のみを処罰しています。わいせつ物等販売罪(刑175条)で、販売した者のみを処罰し、購入者を処罰していないのと同じ構造になっています。
 このような場合、通常の形態における相手方は処罰されないものと解されています。判例も、弁護士でない者に報酬を払う約束で弁護し活動を依頼したという非弁活動の禁止に関する教唆が問題となった事案で、「ある犯罪が成立するについて当然予想され、むしろそのために欠くことができない関与行為について,これを処罰する規定がない以上、これを、関与を受けた側の可罰的な行為の教唆もしくは幇助として処罰することは、原則として、法の意図しないところと解すべきである。」としています(最判昭和43年12月24日刑集22巻13号1625頁)。さらに、導入預金に関する事案でも、同様の趣旨を判示し、「通常予想される行為に止まる」行為について共犯として処罰できないとしています。

可罰的違法性

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 大阪府松原市のコンビニエンスストアの外壁にあるコンセントを無断使用し、携帯電話を充電したとして、大阪府警松原署が中学生の少年(15)ら2人を窃盗容疑で書類送検していたことが、19日わかった。
 充電時間は約15分で、電気代の被害額は1円だが、同署は「金額はわずかでも、犯罪であることに変わりはない。見て見ぬ振りをせず、法律に従って手続きをした」としている。

1円でも盗みは盗み、コンビニで携帯に無断充電の少年送検 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

 こういった報道に接すると、すぐに想起するのが、一厘事件(大判明治43年10月11日刑録16輯1620頁)であろう。これは、価格1厘弱に相当する葉たばこを政府に納入しなかったという煙草専売法違反の事件である。大審院は、零細な反法行為は犯人に危険性があると認めるべき特殊の情況のもとに決行されたものにかぎって処罰すべきであるとして無罪としたのである。冒頭の想起がなされるのは、この判例をもとにして、客体の価値が僅少の場合には財物性が否定されるとする理解が一般になされているからであろう。
 しかしながら、この判例の射程範囲として、財産犯における財物の価値性一般にまでおよぶとみるべきかは、慎重でなければならない。事案が、煙草専売法という国家財政の確保を目的とする法律に関するものであり、刑法の財産罪とは異なる価値に依拠する法益が問題となっているのに加え、事案の性質からみて、政策的判断が相当程度介在している可能性があったからである。

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