刑法各論の最近のブログ記事

強制執行妨害罪

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この「ハーベスト投資顧問」というのは今回の売買のために設立されたペーパーカンパニーで、実体はないらしい。 「緒方氏自身も「この売買を成功させるためのペーパーカンパニー」と表現していた。」!!!
もはや、「朝鮮総連を調査対象とする公安調査庁の元長官だった人物が売買にかかわったこと」が問題なのではなくて、典型的な強制執行妨害罪ではないか。
その売買の話を持ち込んだ同期の元日弁連会長も、教唆か、共同正犯かは知らないが、塀の中に落ちるのは時間の問題という感じがする。
いずれにしても、もう整理回収機構は総連に帰属するすべての財産(628億円分)を仮差押しておくべきなんじゃないか?

Matimulog: news:堂々といえることなの?

 名古屋の学会のときに、強制執行妨害罪の抜刷りをもらったな、と思いつつ、判例はこうはいかないのではなかったかとちょっとだけ調べてみました。
# せっかくの年休なのに、TKCから判例のデータベースにアクセスするなんて。


とりあえず、新学期

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 1月1週目と1月末の二度の海外出張以降、学務・入試に追われ、一段落したら、肺炎になり、3月はなにもできずじまいでした。いろいろ書きたいことはあったのですが、かけずじまい。その間、新刊ラッシュなのか、多くの方から書籍をいただいたにもかかわらず、ほとんど読めずじまい、封も開いていないものがあったりします。
 こちらも、とりあえず、手軽なことから、再出発です。とはいえ、今年度は、学部の教務委員長に。できるのか、できないのか。

奴隷を商品として扱うのは古代社会にもあったし、戦前の日本では貧農の娘が売られた。いまから思えば言語道断、けしからん行為だが、当時の売春は合法だった。どちらにしても、過去の歴史を現在の基準で免罪や断罪したりするのは誤りだ。

【産経抄】3月30日-コラむのニュース:イザ!

 たしかに売春は合法だったのかもしれませんが、女性や子供などの人身売買や不当な拘禁状態を適法にしていたわけではないです。実効性の点は別として、略取誘拐罪というのは、人買いなどを規制しようというものであって、まさに拐取された被害者からの搾取を防ぐとのが戦前の略取誘拐罪の意義だったわけです。なので、現在の基準でも、過去の基準でも、違法なことであったといえます。誤解のないように。
 身の代金目的誘拐罪などは、新しいタイプの拐取罪であって、平成17年の人身売買罪の追加によって、改めて拐取罪の本来のタイプが意識されようになったのではないでしょうか(もっとも近年の改正は、組織犯罪やトラフィッキングへの対抗からなされたものです)。

自己嫌悪の週

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通帳詐欺は高裁レベルで有罪の判決が続々ですね。

 銀行においては,口座開設を承諾するか否かにおいて,口座等の利用を口座名義人が行うか否かは,口座開設を承諾し,キャッシュカードを交付するか否かを判断する上での重要な要素になるというべきである。

奥村弁護士の見解 - 他人にキャッシュカードを譲渡する目的で銀行に対して自己名義で口座開設を申し込みキャッシュカードの交付を受ける行為は詐欺罪となる(仙台高裁h18.11.7)

 誰が口座を利用するかどうかが口座開設で重要なら、だれが購入した酒類やたばこを飲用するかもやはり重要というべきでしょう。あるいは、18歳未満への販売を規制されている雑誌・書籍についても、だれがその雑誌や書籍を読むのかも重要でしょう。というわけで、この論理だけでは、未成年で自分で飲用するつもりなのに、成年の第三者(たとえば父親)が飲用するものと偽って(この点を明示しなくとも、未成年が購入する場合は当然その用途であることが前提となっているので、欺罔があるといえます)酒類・たばこを購入することは詐欺罪を構成するし、有害図書指定等により18歳未満への販売を禁止されている雑誌・書籍を18歳以上だと偽って購入する行為も、詐欺罪を構成することになるのでしょう。さらに、未成年への販売を禁止されている馬券(勝馬投票券)等についても、同様に解すべきです。警察の方々、がんばって、そういった行為も検挙してください。

通帳に対する詐欺

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違法な目的を秘して口座を開設したことが、銀行に対する詐欺罪(通帳・カード)を構成するか?

奥村弁護士の見解 - 通帳詐欺の論点

 今週の授業で扱う予定。最初の判例は、通帳の財物性を判示したにすぎないですが、この問題の本質は、欺罔行為の有無にあると思います。判例・通説のいう「本当のことを知ったら、財物・利益を移転しなかっただろう」という公式があまりに粗雑で、理論的根拠もなく、伸縮自在なことももんだいですが、それだけでなく、不法目的の行為はそれだけで違法という旧態的な道徳的違法観に問題の根があるのではないでしょうか。

 

証拠隠滅教唆は教唆の正道か

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 以前大阪に住んでいた頃、近所に正道会館の本部がありましたが、その創設者による脱税および証拠偽造事件に関する最高裁の判断です。判断のポイントは、教唆といえるかという教唆概念に関わるところです。一般に、教唆犯は、教唆行為⇒教唆行為による正犯における犯罪意思の惹起⇒その意思に基づく正犯の犯罪遂行 ということがその構成要件の内容として要求されており、この事件では、教唆行為による犯罪意思の惹起があったかどうかが争われたものです。この点に関して、最高裁は、次のように判示しています。

Aは,被告人の相談相手というにとどまらず,自らも実行に深く関与することを前提に,Kの法人税法違反事件に関し,違約金条項を盛り込んだ虚偽の契約書を作出するという具体的な証拠偽造を考案し,これを被告人に積極的に提案していたものである。しかし,本件において,Aは,被告人の意向にかかわりなく本件犯罪を遂行するまでの意思を形成していたわけではないから,Aの本件証拠偽造の提案に対し,被告人がこれを承諾して提案に係る工作の実行を依頼したことによって,その提案どおりに犯罪を遂行しようというAの意思を確定させたものと認められるのであり,被告人の行為は,人に特定の犯罪を実行する決意を生じさせたものとして,教唆に当たるというべきである。

虚偽公文書作成罪

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 のりを使った工作(色塗りはしません)をしているときに入ってきたニュースです。いそがしさと体調の悪さで、ウイルス作成罪への対応はちょっとまっていただくことになります。m(_ _)m

岩手県では入試の際、単位不足を隠すために虚偽の調査書を作成していたことも発覚した。

大学推薦入試の社会科の評点を付ける際に、実際は履修しなかった必修科目に履修済みの科目と同じ評点を付けてていた。

高校履修不足:架空点数で推薦も 大学側「調査しない」−教育:MSN毎日インタラクティブ

 ただ、そういうときでも、職業病なのか、ついつい犯罪成立要件のことを考えてしまいます。公務員が、その職務に関し、行使の目的で虚偽の文書を作成した場合、虚偽公文書作成罪が成立します。一般的な書式はいろいろでしょうが、調査書は書類発行時の学校長の記名・押印があったように記憶しています。そうすると、国公立の学校の場合、調査書は、公務員が作成すべき文書ですし、公務員がその職務に関し作成する文書ということで、公文書偽造罪あるいは虚偽公文書作成罪の成否が問題となります。問題の調査書が作成された経緯として考えれるのは次の場合が想定されます。

  • 学校長自身が問題の調査書作成の経緯(未履修の科目に履修済みの成績を記載していることなど)を知っていて調査書を作成している場合
  • 学校長自身は調査書の内容には一切関与せずに作成されている場合
    1. 代決者がおり、代決者が事情を知りつつ作成している場合
    2. 事前の決裁を要せず一定の手続により作成することが許容されている者が事情を知りつつ作成した場合
    3. 調査書の起案としてその内容を作成はするが、学校長等が決裁をしている場合

 平成13年の刑法改正により、支払用カード電磁的記録に関する罪(163条の2ないし163条の5)が新設されました。これにより「支払用カード」の不正作出、供用、譲渡,貸し渡し、輸入、所持、不正作出の準備等が処罰されることになりました。本罪の対象となる「支払用カード」とは、クレジットカード等代金または料金の支払用のカードおよび預貯金の引出用のカードをいいます。
 たとえば、163条の2は、人の財産上の事務処理の用に供する電磁的記録であって、支払用カードを構成するものを不正に作る行為を処罰の対象にしています。この場合、カードを構成する「電磁的記録」は磁気ストライプやICチップに記録された電磁的記録をいうことにも争いはないでしょう。SuicaEdyも、電磁的記録を構成部分とする支払用カードです。
 では、モバイルSuicaおサイフケータイは、本罪の対象となるのでしょうか。

権利行使と詐欺

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受信料集金の際に「NHK受信料拒否の論理」の著書があるジャーナリスト、本多勝一さんの名前を持ち出して「本多さんはもう受信料を払っています」などと虚偽の説明をして、集金しようとしていた

Yahoo!ニュース - 毎日新聞 - <NHK>集金でウソ…「本多勝一さんも受信料払っている」

 判例・多数説によれば、いわゆる権利行使と恐喝について、正当な権利行使であっても、その手段として不正な方法(脅迫)を用いた場合には、手段の不当性のみに着眼して脅迫罪とするのではなく、恐喝罪とすべきであるとします。これは、恐喝罪と同様の交付罪である詐欺罪についても妥当するというのです。したがって、権利者であっても、弁済を受けるために欺罔または脅迫を用いた場合、たとえ実際に現金等が交付されなくとも、詐欺未遂または恐喝未遂が成立することになります。

ひき逃げと殺人罪

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容疑者の置き去り行為は、毅君が死ぬかもしれないと認識しながら連れ回し放置した、「未必の故意」による殺人未遂にあたる可能性もあるとみている。

asahi.com:男児ひき逃げ、指名手配の容疑者逮捕 佐賀・唐津 - 社会

交通事故により重傷を負わせ、被害者を連れ回した場合に、殺人罪が成立するかというのは、不真正不作為犯の典型的な問題として取り上げられます。この場合、作為義務があるかどうか、あるいは、作為による殺人と同価値といえるかどうかということが議論されます。(保護責任者)遺棄罪と殺人罪はともに生命に対する罪ですから、その作為義務の内容は共通するものがあります。危険犯と侵害犯とみるなら、遺棄罪の実行行為と殺人の実行行為は危険性の量的程度の相違でしかないと考えることもできます。そうすると、不真正不作為犯における同価値性の判断で、殺人罪と遺棄罪をどう区別すべきなのかということが重要な問題となってきます。しかし、量的な相違に過ぎないとすると、これを客観的に区別することは困難となります。そのため、生命に対する危険犯として遺棄罪が規定され、そこに真正不作為犯の処罰も規定されていることから、不真正不作為犯の殺人罪は認めるべきでないとする見解、あるいは、殺人の故意がある場合には同価値性を厳密に判断することなく、殺人罪を認めるべきであるとする見解が主張されます。

ひき逃げと遺棄罪

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 先週から、プライベートでごたごたしています(やむなく全部休講。担当者決めしているものは試験後に補講ですね)が、基本的なことを考える素材として。
# 実家が大阪だと、特別休暇1日はたりません。使われることのない年休を追加しました。

ダンプカーで連れ去り、約3キロ北の同市浜玉町の林道に放置した可能性があるとみて調べている。

asahi.com:53歳土木作業員を指名手配 佐賀の男児ひき逃げ放置 - 社会

 逮捕状の容疑は、業過と道交法違反のようですが、この事件をきいて想起してもらいたいのは、最判昭和34年7月24日刑集13巻8号1163号です。この判決で、最高裁は、過失に因り通行人に約三ケ月の入院加療を要する歩行不能の重傷を負わしめながら道路交通取締法、同法施行令に定める被害者の救護措置を講ずることなく、被害者を自動車に乗せて事故現場を離れ、折柄降雪中の薄暗い車道上まで運び、医者を呼んで来てやる旨申し欺いて被害者を自動車から下ろし、同人を同所に放置したまま自動車を操縦して同所を立ち去つたという事案で、道交法上の救護・報告義務があることから、法令により保護責任者であるとして、保護責任者遺棄罪を肯定しています。
# 業過で逮捕後、さらに保護責任者遺棄罪等により逮捕するつもりなのかもしれません。

最近のブログ記事(続々・けったいな刑法学者のメモ(補訂版))

また作成罪はいらない?
 熱にうなされているときに、高木さんから…
続・「作成罪」はいらない?
 この法案の問題点が浮き上がってきそう…
「支払用カード電磁的記録に関する罪」に「不正作出罪」はいらないのか?
 上記タイトルは、別にクレジットカードの…