Kathin Janke, Die strafrechtliche Verantwortung des Zahnarztes (LOGOS Verlag, 2005).
本書の冒頭にもあるように、歯科医療と刑法というテーマなど誰も考えたことがないのではなかろうか。それでも、医療過誤という側面からみれば、医療である以上、歯科医師の刑事責任を問題になってくる余地がある。しかし、どこまでが過誤でどこからが治療の副作用かということがきわめてわかりずらいところに、歯科医の刑事責任、そろどころか民事責任がなかなか問題にされない理由がありそうである。審美的な処理(歯列矯正や漂白等)についても、いろいろ書かれている、図や写真がたくさん載っている。
わが国では、通常の医療においても、インフォームドコンセントを欠く医療について傷害罪等故意犯を適用しないが、どの刑法総論の教科書を読むかぎり、緊急を要する場合は別として、インフォームドコンセントがないと治療行為として違法性を阻却しないはずである。だが、実際にそのような形で、傷害罪等が適用された事案はわずかでしかない。このような運用に問題はないのであろうか。
歯科医療でも、インフォームドコンセントのない治療があった場合、それは傷害罪にしてよいはずである。しかし、通常の医療でも運用されていないことを歯科医療においておこなうとは思えない。なお、通常医療に携わる医師は、歯科医師は医師ではないとばかりに法制度や法的責任議論においても別扱いする態度をよく見かけるが、医療行為およびその法的評価では共通のものとみるべきで、通常医療に携わる医師たちのそういった態度はあまり好ましく思えない。