承継的共同正犯と同時傷害

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 承継的共犯のテーマだったので、HD法科大学院の演習問題の事例

 AがXに対して暴行を加えた直後、Aと意思を連絡して、BもXに暴行を加え、傷害を負ったが、Bの加功前のAの暴行によるものか、加功後のA、Bの共同暴行によるものなのか判明しなかった。

について、学部演習で扱いました。

 ゼミの話はおいておいて、気になったことは、傷害罪に関する承継的共同正犯の判例として、大阪高判昭和62年7月10日高刑集40巻3号720頁をあげて、それと同じ論理で、上記のような事例を「判例同旨」として解決しようとする学生が多いことです。この判決の要点だけを抜粋すると、
 先行者の犯罪遂行の途中からこれに共謀加担した後行者に対し先行者の行為等を含む当該犯罪の全体につき共同正犯の成立を認めうる実質的根拠は、後行者において、先行者の行為等を自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用したことである。
 承継的共同正犯が成立するのは、後行者において、先行者の行為およびこれによって生じた結果を認識・認容するにとどまらず、これを自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用する意思のもとに、実体法上の一罪(狭義の単純一罪にかぎらない。)を構成する先行者の犯罪に途中から共謀加担し右行為等を現にそのような手段として利用した場合にかぎられる
 先行者が遂行中の一連の暴行に、後行者がやはり暴行の故意をもって途中から加担したような場合には、一個の暴行行為がもともと一個の犯罪を構成するもので、後行者は一個の暴行そのものに加担するのではない上に、後行者には、被害者に暴行を加えること以外の目的はないのであるから、後行者が先行者の行為等を認識・認容していても、他に特段の事情のないかぎり、先行者の暴行を、自己の犯罪遂行の手段として積極的に利用したものと認めることはできない
 被害者の受傷の少なくとも大部分は、被告人の共謀加担前に生じていたことが明らかであり、右加担後の暴行によって生じたと認めうる傷害は存在しない。

 最後の点に示されるように、本件では、傷害は先行者の行為によって惹起されたことが前提になっているので、どちらが惹起したかわからない冒頭の事例とは少々違うのです。なので、この判決の論理を適用できるかどうかも微妙なところではないでしょうか。むしろ、従来の肯定説は包括一罪でも一罪であるということによって承継的共同正犯を肯定しようとするものであったといえます。

 もっとも、この判決の示す基準自体もそれほど明確ではないといえます。実体法上の一罪を構成する犯罪の途中から参加して、先行者の行為等を自己の犯罪遂行手段として積極的に利用したといえるときには、共同正犯を認めることができるが、連続する暴行罪のように分割可能な包括一罪の場合には、承継的共同正犯を認めることは原則としてできない、とするという一般論それ自体は是認するとしても、特段の事情が存在することで先行者の終了した独立した一罪を後行者が利用したとして、承継的共同正犯を認めることができる場合は、どのような場合かが、実はこの判決では明らかにはなってはいません。あるいは、実体法上の一罪と包括一罪を区別する根拠はどこにあるのでしょうか。もし、包括一罪の場合、実体法上、先行者の犯罪行為はすでに終了しているということであれば、そもそも承継を認めることが可能となる特段の事情というものはおよそ想定しえないのではないでしょうか。
 この判決の論理にしたがうとしても、実体法上の一罪とそれ以外の一罪で異なった取り扱いをする根拠は何か、また、狭義の単純一罪より広い実体法上の一罪とはいかなるものなのかということを明らかにする必要があります。

 (つづく)

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続・けったいな刑法学者のメモ - 承継的共同正犯と同時傷害(つづき) (2005年11月28日 00:06)

 先のエントリー承継的共同正犯と同時傷害の続きです。 一罪性の話は後回しにして、冒頭の事例において、承継的共同正犯を認めない場合はどのようになるのかということを考えてみましょう。... 続きを読む

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