後出しではないと思えるところ

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 詳細な事実は不明なので、推測でしかない。だから、事実によっては違うということもあろう。今回の逮捕は、偽計と風説の流布による証取法違反であるが、取引目的または相場変動目的がないといけない(証取法158条)。で、おそらくこれによる株価のつり上げが問題とされているのであろう。本件以外にも、粉飾決算が捜査の射程とされているそうである。たしかに、これまでは、企業法務戦士の雑感に書かれているように、

山一證券やカネボウ等で問題になったのは、
「債務隠し」によって、財務状況の悪化を隠す行為であったし、
ベンチャー等で問題になったのは、ありもしない取引を偽装する行為であった。

あるものを隠す、あるいは何もないのをあるように見せかけると、
結局、どこかで辻褄が合わなくなって、
企業が「突然死」するおそれがある。
したがって、このような行為の違法性はきわめて高いといわざるを得ない。 といえる。

 しかしながら、もし今回の行為も粉飾であるとしたら、それは従来のものの形を変えたものでしかないといえるところもあるとも思える。ライブドアのこれまでの方針は、株式について利益配当をすることなく、株式分割という形で株主に利益を還元してきたところがある。これは、つい最近までマイクロソフトやサンがやってきたことと同じである。株式を長期保有すると、株式分割⇒株価の上昇(時価総額の上昇)ということで、株主が利益を得ることができた(この意味で、株価の上昇や株式分割は実質的な利益配当であるとみることができる)。だからこそ、時価総額の上昇は至上命題ともなりうる(にわとりと卵の関係かもしれないが)。そうすると、時価総額・株価の上昇が不正な仕方(粉飾決算や風説の流布等)でなされていたとすると、時価総額が会社の実体と乖離して、あるいは、資本の空洞化を招来して、最終的には、企業活動の破綻のリスクが高まっていくように思われる。あるいは、株価の急下落で株主に損害を与える危険もあろう。このような場合、報道にあるように、まさに名目的な時価総額でしかなかったわけである。
 そうなると、細かな会計上の処理として看過することはできないし、行為者についても、相当程度自己の行為の有害性について認識があったということになる。
# 以上のことは、企業会計等の分野については素人の見方なので、まったくまとはずれかもしれない。

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コメント(3)

私も企業会計等の分野については素人ですが、上場企業においては、投資家の投資判断において正確な情報開示は極めて重要であると思いますので、実態に合わない会計処理は原則として重大な違法性を帯びると思います。
グループ全体で帳尻があっていればいいという意見を聞いたことがありますが、そういうものではないと思います。
違法性の意識の可能性という観点で言えば、客観的に違法であることを前提にして、ほぼ当然に認定されるのではないでしょうか。
裁判所としては、起訴されれば、そのような認定を踏まえて違法性の意識不要説で突っ張ってしまうことが予想されます。
犯罪としては構成要件に該当することが前提であることは言うまでもありませんが、その点は勉強不足でまだよく理解できません。

 私の感覚では、個々の偽計や株式交換の仕組みなど単体が本当に問題とみているわけではなく、それらの個々の行為の集合体が本当の標的ではないかということです。
 通常の会社では、粉飾により違法配当をすると、端的に犯罪行為ということが判明します。ライブドアの場合は、配当に相当するところが時価総額の上昇・株式分割で、ここが株主のうまみとするものです。そうすると、いろいろな仕組みを使って、いわば虚構の時価総額を創出することを違法配当に類似するものとして、規制できるというのが、今回の騒動・捜査ではないかと思っただけです。本当にそうかどうかはわかりませんが。

 違法性の錯誤はおそらくおっしゃるとおりになりそうなのですが、それでよいのかというのが、私の趣旨です。そのような方向では、きわめて実証主義的な法概念にいたるか、政府と市民との上下階層構造を法システムに内包させてしまうのではないかということです。

strafrechtの、ひまに推測するつもりだった?

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