Aの息子Bは,やはり被告人の信奉者であったが,後遺症を残さずに回復できることを期待して,Aに対するシャクティ治療を被告人に依頼した。
刑法授業補充ブログ : 刑法演習@HD大Klausur(1)
判例では、息子との関係では、保護責任者遺棄致死罪の限度で共同正犯を認めるのですが、いつもわからないことは、この場合、罰条はどのように記載するのでしょうか。実務はどうするのかというのと、理論的な意味でどのような構成要件、罪数処理をするのかということの両方の点で、わからないのです。
保護責任者遺棄致死罪の限度で共同正犯が成立するということは、両者に対して、刑法218条、219条、60条の構成要件について犯罪が成立するということでしょうか。すると、殺意があった者は199条の殺人罪の単独正犯です。この保護責任者遺棄致死罪の共同正犯と殺人の単独正犯はどのような罪数処理なのでしょうか。
- 構成要件の段階で吸収されてしまい、殺人罪のみの構成要件となる
- 実体法上は別罪だが、包括一罪として重い殺人罪に吸収される
- 観念的競合
- 199条
- 199条、60条
- 218条、219条、60条、199条
- 218条、219条、60条、199条、54条
というわけで、部分的犯罪共同説をとる人たちはこのへんどう考えているのか、教科書等で明記していただけると助かります。
「被告人の所為は刑法60条(ただし,保護責任者遺棄致死の範囲で),199条に,息子の所為は刑法60条,219条(218条)にそれぞれ該当する・・・」とする(包括一罪あるいは観念的競合ではない。)のが大勢だと思われます。ちなみに,司法研修所刑裁教官室編「刑事判決起案の手引き」(公刊されております。)は,上記のように適条することを明記しております。
↑の補足。息子が共同被告人でなければ,当然,息子の部分は記載不要。「被告人の所為は刑法60条(ただし,保護責任者遺棄致死の範囲で),199条に該当する・・・」と記載することになります。念のため。
私は、包括一罪の吸収関係ではないかと推測していたのですが、違うらしいということはわかりました。m(_ _)m
「(ただし,保護責任者遺棄致死の範囲で)」の有無が部分的犯罪共同説と行為共同説の違いということになりますね。でも、これを理論的に説明しようとするのはかなりむずかしいかもしれません。少なくとも、錯誤論・故意論での処理はしないということです。それは、息子のほうに38条2項を適用しないことで示されています。
そうすると、保護責任者遺棄致死罪の共同実行行為が存在するということになります。しかし、他方で殺人罪の実行行為が存在するから、殺人罪に問うことができるはずです。この二つの実行行為の関係をどうみるのか。包括一罪でないとするなら、残るは構成要件的評価における一罪です。特別関係とみるか、吸収関係とみるかわかりませんが、この場合、60条はいらないはずです。殺人は共同実行していないので、199条に60条の修正をすることはできないでしょう。