渡邊卓也「電脳空間におけるわいせつ情報とわいせつ罪の行為態様」

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 清和法学研究12巻1号65頁以下。ようやく社会復帰で、手始めに紹介。
<目次>
第一章 問題の所在
第二章 各行為態様とその区別の基準
 一 頒布と販売
 二 販売目的所持
 三 公然陳列
第三章 電脳空間への適用
 一 画像公開事例
 二 メール添付事例
第四章 立法動向とその問題点
 一 二つの法案
 二 検討
第五章 結語

 簡単に言えば、刑法175条の改正案と児童ポルノ処罰法の改正を、改正前の判例の動向から批判的に検討しようというものです。175条と児童ポルノの改正法に関して、ようやくきちんとした解釈論を示す論文がでてきたという感じです。現行刑法175条における「提供」「販売」といった行為態様が「客体の引渡し」を前提として解釈されるべきでとの立場から、また、「電磁的記録」もデータそれ自体をさす概念ではなく、媒体に化体した状態を意味するものとされてきたころから、改正法において、電磁的記録の「提供」「販売」といった(有体物と同様の)行為態様の規定の仕方に疑問を提起しています。
 たしかに古典的な情報の管理・支配は、媒体へのコピーと媒体の支配・管理によってなされてきたわけです。しかし、ネットワークを通じた情報伝達は、情報の管理・支配のあり方を変容させた見ることもできます。つまり、他者の管理・支配する媒体への直接的なコピーが可能になったということです。このような背景の変化に応じて、電磁的記録の意味を87年改正当時のままなお維持すべきかどうかについても、さらに問題とする必要がありそうです。また、情報については、その所有と管理とがかならずしも一致しないともいえ、そのような点から販売の意味を検討することも必要なように思われます。
 さらに、ドイツ刑法184条に関して、ドイツ刑法11条3項の改正がどのような意味を持っていたのかということと、184条の規定する行為態様との異同を検討することも、改正法に対する提言としてより説得的になったように思います。

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コメント(3)


清和法学取り寄せ中です。

児童ポルノ罪についてみると、公然陳列罪の犯罪事実は従来、
http://courtdomino2.courts.go.jp/kshanrei.nsf/WebView2/27642C03FB01140B49256E6700180854/?OpenDocument
「不特定多数の者に対して,上記各画像データが蔵置されたホームページのアドレスを教示するなどし,そのころ,C及びDをして,Cには上記1と同様の児童ポルノの画像(ただし,衣服の全部又は一部を着けないで性器等を露出した児童の姿態を露骨に撮影した児童ポルノについては21画像)を,Dには上記児童2名のすべての画像をそれぞれの自宅に設置されたパーソナルコンピューターに受信させて再生閲覧させるなどし,
もって,児童ポルノを公然と陳列した」
などと記載されているのですが、
不特定提供罪(7条4項)が創設されて、データが相手方に利用可能になると、「提供罪」になることになりました。

 とすると
「不特定多数の者に対して,上記各画像データが蔵置されたホームページのアドレスを教示するなどし,そのころ,C及びDをして,Cには上記1と同様の児童ポルノの画像(ただし,衣服の全部又は一部を着けないで性器等を露出した児童の姿態を露骨に撮影した児童ポルノについては21画像)を,Dには上記児童2名のすべての画像をそれぞれの自宅に設置されたパーソナルコンピューターに受信させて,」
という事実は、
「もって、不特定多数の者に提供した」という評価も可能になります。
両罪成立するような気もします。
これでは「もって・・・・」によって罪名が変わるような感じで、罪となるべき事実として充足していないことになります。

ここは学者先生にお考えいただいて、行為類型を整理していただきたいところです。

奥村先生
おそらくこの論文の著者の立場からでは、公衆送信とか、送信可能化という行為態様を設けるべきことになるのでしょう。不特定提供と公然陳列の相違は、かなり紛らわしいですね。不特定または多数というのが公然性の要件ですから。立法した人たちはそういうことすら認識していなかったのでしょう。
あえて区別をつけると、サーバでの送信可能化状態の作出(あるいはpull型サービスの利用)が公然陳列、不特定または多数人への送信(あるいはpush型サービスの利用)が提供ということになるのでしょうか。

清和法学、阪大にはありません。

要するに、有体物はそのままで、画像データだけが送信されるという特徴を考慮して、Web掲載・ダウンロード販売・ファイル共有という行為類型に着目して「Web掲載罪」「ダウンロード販売罪」「ファイル共有罪」を作ればいいんですよね。

 国会でも話題になりましたが、刑法は「頒布」という言葉にこだわっているようですね。
http://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000416220050712026.htm
次に、このようなもので、その頒布にかわり公衆送信の用語を用いるべきではないか、こういう御意見がございます。

 わいせつな電磁的記録送信頒布罪における頒布は、有体物の頒布に準じて解釈することができ、その意義は明確であると考えております。その罪の成立には、不特定多数の者の記録媒体にわいせつな電磁的記録を存在するに至らしめることが必要でございます。

 これに対し、公衆送信は、具体的な定義規定を置かなければその意味が不明確である上、仮に、「公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を行うこと」、これは著作権法二条一項七号の二に規定されているわけでございますが、わいせつな電磁的記録を公衆送信したというような構成要件にいたしますと、相手方における記録の存在はもちろん、相手方の受信を要せず、送信の段階で犯罪の成立を認めることになりますので、そのような規定ぶりは適当ではないというふうに考えておりますし、また、公衆送信という規定ぶりでは、公衆とは言えない多数人に送信するような行為が含まれるというような問題もございますので、いかがかというふうに考えております。

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