2006年12月アーカイブ

 さる方のご厚意により、およそ24時間前にようやく報道資料として配付された判決要旨を入手することができました。分科会のコーディネータはメールしたと会場でいったが、あやしげなファイルだったのでスパムフィルタで消えてしまったのでしょう。なお、このへんの問題に興味をもっている後輩が、地裁判決が公刊されたら、すぐに評釈を書くといっていましたので、無用の圧力をさけるため、当面積極的なコメントはやめておくことにしました。それでは、せっかく判決要旨をいただいておいてもうしわけないので、以下、雑感まで。

ここで、一般に、次の2つの司法判断を想定してみる。
(a) 違法な利用目的以外に利用価値のない技術(違法目的以外の利用には他の十分な技術が存在する)について、開発者が犯罪幇助の罪で処罰される。
(b) 有意義で価値中立的な技術について、開発者が犯罪幇助の罪で処罰される。社会における現実の利用状況に対する開発者の認識によって。
どちらが技術者にとって不安が大きいか。
革命を起こす目的で確信犯を承知で(a)のソフトウェアを開発し提供する技術者にとっては、(b)の方が不安が小さいだろう。利用状況に対する認識と提供する際の主観的態様を露呈しないように潜んでいればよい。
しかし、有意義で価値中立的な技術を生み出しているつもりの世の大半の技術者にとっては、(a)の方が不安が小さい。なぜなら、違法な利用目的以外に利用価値のない技術など、はなっから開発しようなどとは考えもしないでいるからだ。(YouTubeを提供するのも、本来の目的があってこそだろう。)
善良な技術者は、(a)の司法判断が出ることなど気にもしていない。今回の一審判決で(b)の司法判断が下されたからこそ、今後のソフトウェア開発に萎縮効果をもたらしかねないと懸念しているはずだ。

高木浩光@自宅の日記 - 「不 当 判 決」 村井証人証言は僕ら技術者を幸せにしたか

Tetsu=TaLow先生も、分科会の打ち合わせをしていたら、このようなことを指摘されていました(若干ニュアンスや趣旨はことなるかもしれませんが、この記載自体は伝聞ということで)。個人的には、

  1. (a)をどのように裁判で立証するのか
  2. それを解釈論として打出すことができるのか
  3. 解釈論として可能であったとしてもなお(b)の余地は残るのではないか
という感じをもっています。
 これに対して、1の点に関して、IT弁護士は、ソフトウエアフォレンジックスの手法でいけるのではないかという指摘をされました。時間がなくて、言及し忘れましたが、日本はまだデジタルフォレンジックスではなく、コンピュータフォレンジックスのコンセプトにとどまっていますので、まだまだ先は長いかなということでしょうか。

明大法研特別講義の案内

日時:12月22日(金曜日) 時間3時〜5時
場所:明治大学駿河台校舎リバティタワー15階1156教室
テーマ:刑事責任における故意の意味〜心理的責任論は克服されたか
# 公開方式なので、私のゼミ生等も参加可能とのこと。

これが本業です。タイトルからわかるとおり、通説的な責任論(厳格故意説だけでなく、責任説も含めて)はいまだ心理的責任論にとどまっているというもの。

不能犯だ、幻覚犯だといわれようと、本当にやりたいのは、刑法哲学的なこと。

判決全文はともかく、速報から、なので正確なことはわからないが。

 判決はまず、ウィニーの性格について「さまざまな分野に応用可能で有意義なものであり、技術自体は価値中立的なもの」としたうえで、技術の外部への提供行為が違法になるかどうかについては「その技術の社会における現実の利用状況やそれに対する認識、提供する際の主観的態様による」とする一般的な判断基準を示した。

asahi.com:ウィニー開発者に罰金150万円の有罪判決 京都地裁 - 社会


 このようにいっているのに、

威嚇は、調教可能なあらゆる生物に対して可能であり、有責的に行為する行為者だけでなく、子供、精神病者又は精神的遅滞者、さらには犬などのいくらかの動物にも可能である。もし刑罰が威嚇による調教にすぎないのなら、すべての文化的な近代刑法によって取り入れられてきた責任主義はいったい何だったのであろうか?

法益保護説は決して制限的なものであるわけではない。一定の〔政治的〕方向(Fahrwasseer)においては、より拡張的にもなりうる。たとえば実際ナチス時代にドイツがそうであったように、一定の政党の存立、人種の純粋性などを罪であるとすることさえ可能である。同様にそのような無理な要求(Zumutungen)の拒否は、一つの政策的課題であって、純粋な解釈論的課題ではないのである。

Günther Jakobs(翻訳・川口浩一)「どのようにそして何を刑法は保護するのか?-否認と予防;法益保護と規範妥当の保護」姫路ロージャーナル1号(2005年)33頁以下

民主党は、飲酒・ひき逃げ等悪質な交通事犯を抑止するため、(1)刑法に「酒気帯び運転等業務過失致死罪」を新設するとともに、道路交通法上の救護義務違反の法定刑を引き上げることにより、飲酒ひき逃げの最高刑を15年とする

民主党:刑法及び道路交通法の一部を改正する法律案について

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